PENGUINS PROJECTの作詞講座「第4回:『また汚職? オー、ショック。』」

PENGUINS PROJECTの作詞講座
第4回:「また汚職? オー、ショック。」


※前回のまとめ:


・人生経験の豊かさと歌詞の豊かさは比例しない。
・一つの物事を、沢山の視点から見ることが大事。
・パターン化言語は、視点を固定してしまうから危険なのだ。
・視点人物を意識して、場合によって使い分けよう。


※今回のなかみ:


・名詞、特に固有名詞を歌詞に使うとインパクトを生む。しかしリスクもある。
・倒置法を積極的に活用しよう
・語尾のバラエティを増やそう
・叙述用法の形容詞は鬼門だ


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 ちわーす、PENGUINS PROJECTです。
 いよいよこの講座も第4回。早くも終盤に入ってまいりました。早いですね。今回と次回(最終回)はまとまった内容を論じるというよりも、今日から使える!感じの(自称)豆知識をご紹介していこうと思います。今までの内容に比べると深みに欠けるかもしれませんが、そのぶん即効性はあると思います。よろしくお願いします。


1/名詞、特に固有名詞を歌詞に突っ込んでインパクトを出せ!(中毒注意)


 まず最初にご紹介するのは、「歌詞に名詞、特に強力な固有名詞を入れてしまう」という作戦です。これには大きくわけて2つのメリットがあります。1つは固有名詞が聴き手にインパクトを与えること、もう1つはその固有名詞からイメージを連想させれば作詞がはかどることです。以下詳しく見ていきましょう。


 まず、固有名詞のインパクトについて。お気付きかと思いますが、固有名詞を使って歌詞の印象を強める手法は、私がものすごくよく使っている手法です(笑)。「チョコレート・トレイン」での「non-no」「AERA」にはじまり、「はてな!」での「グーグル」「ウィキペディア」「ピカソ」、「思春期ボーカロイド」では「元町」、「うしろまえワルツ」では「じょにー」なんてのも出てきます。じょにーって誰だ!って思いますよね。そんなもん私も知りません。でもじょにーの印象だけは残ります。
 固有名詞は独自性の塊です。その言葉自体からあふれる力の恩恵にあずかることができるわけです。その固有名詞から歌詞中の登場人物が想像できるようなものだと、いいですね。一昔前のJ-POPだとクルマ関連とかブランド名が出てきてた気がします、ちょっと恥ずかしいですけど「マセラティw」「クロムハーツw」とかね。うひゃあ。
 体言止めにしたり、連発したりすることでさらにその効果は高まります。体言止めとはご存知の通り、文章やフレーズの最後を「〜だ」ではなく名詞で終える方法です。「あなたから指輪をもらった」よりも「あなたからもらった指輪」のほうが歌詞としてのインパクトが強くなるわけです。連発については言うまでもありません。「野に咲く花 スミレ なずな クローバー」……まあ、歌詞に困ったときにやるとちょっとあざといですけど。


 次に聴き手に対する効果だけでなく、書き手自身に対する効果もあります。歌詞のどこかに強力な名詞を入れると、それをきっかけに他の歌詞が連想できるようになるのです。言葉の力に引っ張られて作者が書き進めていくのです。導かれるように作詞がはかどります。お勧めです。例えば「グーグル」って書いたら「サーチして」みたいな表現が出てくるかもしれないし、「not found」なんて言葉をうまく使える場所がみつかるかもしれない。「フェラーリ」って書いたら恋愛をF1にたとえた歌詞が書けるかもしれないし、「ヴェンダースの映画みたいに」とか書いたらそこから旅が始まるわけです、パリ、テキサス


 しかし当然リスクもあります。「やりすぎると鼻につくが、それ以外の方法で書けなくなる」という名詞インパクト中毒症状はその最たるものです。しかしそれだけではありません。さらに2つ挙げられる欠点は「作詞者の身の程が知れる」それから「人が知らなきゃそれでおしまい」という点です。説明していきましょう。


 固有名詞にはその対象物(AERAとか)の歴史と経緯、社会的評価や印象がすべて含まれています。それらの力を借りて歌詞を書いていくことになるわけです。そして、作詞における成否の評価はひとえに「作者がその曲のその部分でこの名詞を持ってきたセンスの善し悪し」で評価されるわけです。そう、名詞を選んだのは作者です。選ぶのは作者です。ということは、選んだ名詞のセンスで、作者がどういう知識を持っていて、どういう生活をしているのかが、かなりバレます。「報告書の束 抱えて走る僕/待ち受けるクライアント」なんて書いたら会社員だし(自営業かもしれないと思いましたがオフィス内を「走る」というのが大きなビルで雇われている印象)、「教科書が教えてくれないステキな恋を/早く教えてアインシュタイン(うわ例文作るだけで恥ずかしいw)」とかだったらまあ、せいぜい中学生の女の子なのかなあ、とかね。でも男の子のほうがもっと鈍感かもね、仕方ないね。身の丈以上の歌詞は書けないし、頑張って書けば書くほど身の程が知れます。一発です。瞬時にそいつの知ってる世界の広さがばれます。その恐ろしさは痛感しておきましょう。かくいう私も「また汚職? オー、ショック。」と書く程度の庶民です。


 あと、「人が知らなきゃおしまい」ってのはそのまんまです。その名詞が一般的に認知されているものでないと、知らない人はまったく分かりませんから。でもこれ、ひょっとしたらニコニコ動画界隈で作詞をする時には「ものすごく」気をつけたほうがいいかもしれない。みなさん当たり前のように「ネギが」とか「ロードローラーが」とか歌詞に入れてますけど、それ完全にコンテクスト(context=文脈)依存の言葉ですから、ニコニコ動画ボーカロイド界隈を一歩出たらまったく理解されません。(ちなみにネギというのはボーカロイド初音ミク」がユーザーによるキャラクター形成の結果持たされた野菜で、ロードローラーは同じくボーカロイド鏡音リン・レン」の持ち物です)。それを使うからには、「文脈の外には広がらなくて結構」という自覚でやりましょう。


2/情報を「伝える順序」に気を配ろう


 あと、気を付けたほうがいいのは同じ情報でも「伝える順序」に気を配ることですね。
 ニコニコ動画などで様々なオリジナルの歌詞に接していて思うのは「伝えたいことを伝えようとしているが、伝える順序に工夫がない歌詞」の多さです。「別れた恋人を今でも想っている」というテーマの歌詞があると仮定しましょう。「好きだった→険悪になった→別れた→でも好き」という順番で伝えるのでは何の工夫もありません。これではリスナーの興味を引くことは難しいでしょう。そこで例えば、以下のように伝える順序に工夫をこらします。
 「別れたけど今でも好き」と最初のサビで言ってしまいます。そのあと時間を逆行して、Aメロで「別れの場面」を描き、Bメロで「あの喧嘩がきっかけで険悪になった」という説明をして、もう一度サビが来たところで「あの日二人はあんなに愛し合っていたのに…」という内容を盛り上がるメロディと共に歌詞に込める…
 どうでしょう、ストーリーは時間軸に沿った説明をする必要なんてないのです。時間軸や起承転結のフローチャートよりも、音楽の盛り上がりに寄り添いましょう。それが歌詞の役目です。意味はあとからついてきます。


 歌詞全体の順序構成だけでなく、ひとつのフレーズの中でも順序に気を配りましょう。具体的には「倒置法」をはじめとする語順の組み替えの活用です。意外性のある情報を伝える場合にそれを倒置にするなんてのは常套手段ですね。「あなたのもとから去って行ったの/あなたが好きだから」みたく(ベタだなあw)、理由と行動が一見一致しない状況を倒置で描くのは効果的です。


3/語尾の多様性の大切さ


 そして日本語で作詞をする際に特に顕著な難問について考えます。それは「語尾の硬直性」です。日本語は文末に助詞や助動詞がくることが多いので、「〜だ」「〜だった」「〜です」等のパターン化された文末がどうしても非常に多くなります。これがそのまま歌詞に持ち込まれると、きわめて無味乾燥で説明的な印象を与えてしまい、歌詞としてすぐれたものになりにくい傾向があります。
 今回の講座で先に述べた「体言止め」や「倒置法」などはこれを解決する有効な手段で、現に文学作品や詩歌でも使われています。文末に名詞が来たり、接続詞が来たりすれば、当然「〜だ」や「〜です」の多用は避けられますものね。


4/叙述用法の形容詞は鬼門


 フレーズを形容詞ばかりで終わらせないことも、私が気を付けていることのひとつです。これも3番「語尾の多様性」に繋がってきます。けっこう気になるんですよね、語尾って。
 みなさんご存知の通り、形容詞とは「うれしい」「かなしい」「はずかしい」など物事の様子を言い表す「〜い」で終わる単語です。そして形容詞には2つの用法があります。ちょっとややこしい話なのですが…。まず「きれいな花」というのは「きれいな」という言葉で後ろの「花」を限定しています。これを限定用法と言います。それに対して「花がきれい」となれば「花」のありさまを「きれい」という言葉で説明(叙述)していることになります。これを叙述用法と言います。
 これがねえ、危ないんです。「〜い」で終わるということがはっきりしすぎているので、「あなたはとても・美しい」という歌詞だと「あなたはとても」ぐらいで、大体後ろの流れが想像付いちゃうんですね。ちょっとうまく説明するのが難しいんですが、叙述用法はね、「ゆるい」んです。これを回避するために先ほどまでに説明した「倒置」だの「体言止め」だのを使うわけです。
 それから最も手っ取り早い方法は?そうです「きれいだね」「きれいだよ」「きれいだよね」などの接尾辞を付けてごまかしてしまう方法です。歌詞では音数が命ですから、これらを使って音数を合わせる事もできますしね。


 ともかく大事なのは「ぐだぐだした歌詞を書かないように、構成やフレーズの中の単語の順序、語尾(そして歌い出しも!)への配慮などを怠らないようにしよう」ということです。


※次回でいよいよ最終回です。最終回でもいくつかの豆知識をご紹介しますが、その中でメインになるのは「韻を踏むこと」です。韻を踏むことを、ダジャレや音の遊びだと考えていませんか?韻を踏む事にはそれ以上の大切な、ものすごく大切な意味があると考えています。では、最終回もお楽しみに!